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脚本・編集 そんちゃん

  CAST
ヒカル(開くもの) cv.そんちゃん
サザンカ cv.Shin
盲目のアディーン cv.ジュニ
男(父)
女(母)
cv.弧鈴
cv.パフェ
聖女マハ
聖女の側近
cv.ウズ
cv.うめりんご
白銀の騎士ハウル cv.キヨ
信者A
信者B
信者C
信者D
cv.まめ鋼
cv.ハロ
cv.春一番
cv.よーこ
ナレーション 絹の魔法使い



『…あの日、"神の鉄槌"が下された日…王宮から噴き出した炎は天まで昇る巨大な柱と化し、
国中に降り注いだ。どこへ逃げても炎は生き物のように追ってきて、多くの人を飲み込んだ。
炎に焼かれる私が最後に見たのは…天に向かって祈りを捧げる王女の姿だった。
王女は、涙ながらに何かを叫んでいた。あれはきっと、誰かの名前だったのだろうと思う。
誰かの名前を、ずっと…王女自身が炎に焼き尽くされるまで…ずっとずっと呼んでいたのだ…。
トルファジアの守護神と呼ばれた三頭の竜のうち、
ノーリとアディーンは王女の最後を見届けると、何処へかと飛び去っていった。
ドゥヴァの姿は最後まで王女と共にあった…』


『天槌の日』から3000年、トルファジアは、亡者蠢く死者の国となっている。
アルゼ神に救われることのない彼らは、
地上を彷徨いながら永遠に続く苦しみを…そして誰にも届くことのない祈りを繰り返す。
今日もノスフェラトスには竜の嘆きが響く。
また一つ、命と希望が消えたことを竜はひどく嘆くのだ。


「かつて『神の鉄槌』と呼ばれる光が、トルファジアを消し去った。
それはアルカディア帝国の遺産を使った為におきた悲劇であったらしい。

トルファジアが最後を迎えた日…当時の皇女は城に逃げて来た者たちを全員逃がそうと、
試作品のまま残されていた帝国の遺産を使った。
遺産は暴走し、すさまじい光が炎となって全てを一瞬で包み込んだ…。

 その遺産…エルヴァニア軍を滅ぼすために使っていたなら、
 いまクルクス島の覇権を握っていたのは我々だったかもしれない。」


ヒカル:(ミノキアから北東にある岬の神殿には、トルファジアの守護神と呼ばれた三頭の竜のうち、
     盲目のアディーンと呼ばれる竜がいて、アルカディア帝国の子孫は、
     ノスフェラトスと呼ばれる地へ行くために、アディーンの審判を受けなければならないらしい。

     岬の神殿に行ってみると、『ヴェンジェンス』という教団が守護していて
     興味本位で足を踏み入れるなと警告された。

     『ヴェンジェンス』とは、アルカディア帝国の子孫を守ってる教団で、
     入信すれば帝国の子孫であろうと誰の目も気にせず暮らせるとか。
     アルカス一座とも繋がっていたらしい。
     そして、女帝アルカディアの生まれ変わりと言われている聖女様が『ヴェンジェンス』を率いている。
     その聖女様は一度も予言が外れたことがないらしい。)

    うーん。
    とりあえずアディーンに会いたいけど…
    神殿に入れてもらえないんじゃ…困ったなぁ。
    やっぱり教団の本部があるっていうレクタールに行かないとダメかな。
    聖女様とかに頼めば神殿に入れてもらえるかもしれないしね!

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ヒカル:何これ…

    (レクタールにほど近い場所に来たとき、周りの変化に驚いた。)

    木が腐ってる…
    さっきまでは綺麗な森だったのに、レクタールに近づけば近づくほど木が枯れていってるみたい。

    (それは、地面も同じだった。草がなくなり、茶褐色の大地が広がっている。)

    なんなの…

    (言いようのない不安が胸をよぎる。)

    とにかく…行かなくちゃ…

    (わたしはレクタールへ急いだ。)

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■レクタール


ヒカル:(レクタールはトルファジア国が滅亡した跡地に出来た街だった。
     クルクスの中でもっとも忌まわしき地とされている。

     住んでいるのはアルカディア帝国に縁のある人たちばかりらしい。
     帝国の子孫はどこにいても忌み嫌われ、酷い迫害を受けているという…
     唯一いられる場所がここレクタールなのだそうだ。

     しかし、山を越えた西側にあの美しいコーラルがあるとは思えないくらいに
     レクタールの外には荒れ果てた大地が広がっている。
     帝国の子孫以外は遺跡を狙った盗賊くらいしか訪れない場所。)



    (更に色々調べていると、岬の神殿にいるアディーンに会うには、
     やはり『ヴェンジェンス』の許可がいることがわかった。

     アルゼ神までもが恐れたアルカディア帝国の魔法科学の発展。
     アルカディア帝国の遺産はどれも強力なものばかりで、
     この世界と異世界を行き来できる宝まであったという。

     そして、アルカディア帝国の子孫が最後に行きつく場所が黒の宮殿と呼ばれる場所…。
     そこに異世界へ渡る術があるのだろうか。

     とりあえずヴェンジェンスの神殿に行ってみる事にした。)

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■神殿


聖女の側近:アディーンに会いたい?
        それならば聖女マハ様に占っていただく必要があります。
        占いの結果あなたがアディーンや私たちに危害を加えないとわかったら、
        岬の神殿に入ることができます。

        ですがマハ様に占っていただくには『ヴェンジェンス』に入信していただく必要がありますよ。


ヒカル:入信…ですか。

聖女の側近:アルカディア帝国の子孫たちはお互いを助けあわねばなりません。
        あなたのほんの少しの心がけで、多くの人が救われます。
        お布施をしていただけますね?


ヒカル:は、はい。

聖女の側近:あなたに聖女様のお導きがありますように…

ヒカル:(それから神殿の中で色々な信者の人から話を聞いた。)

信者A:トルファジアが滅んでから、帝国の子孫たちは何とかして新生アルカディア帝国を復活させようと
    何度も何度もエルヴァニアに戦いを挑みました。
    アルカディア帝国の子孫たちを率いていたのは、いつも少女だったと聞きます。
    ですが、それらは全て失敗し、多くのものが志半ばにして死んでいきました。

    最初はトルファジアの難民を哀れんでいたエルヴァニアの人々も、
    次第に彼らを憎むようになっていきました。
    無理もありません、彼らが戦いをしかけてくるたびに、
    土地は荒れ、家族や友人が殺されていくのですから。

    ファーレンの人々がアルカディア帝国の人たちを憎むのと同じように、
    エルヴァニアの人々もトルファジアの人々を憎み…
    トルファジアの民を見つけ出しては殺すようになっていったのです。

信者B:アルカディア帝国を滅ぼした勇者たちのその後は、悲惨なものだったそうです。
    皇女セクメトを助けたアシャフは仲間に処刑され、
    サザンカはコーラルの牢に死ぬまで幽閉されました。
    そして、バルケスはイムールの森で病にかかって死にました。

    ソルキアに新たな国を築いて王となったリーユンには好きな女がいたそうです。
    ですが、その女がアルカディア帝国の民であったため、
    王位を捨て、自らの手で女を殺しに行ったとか。
    今のファーレンの王家は親族の血を引いているというだけで、
    リーユン本人は生涯独身を通したようです。

信者C:アルカディア帝国の魔法科学は、
    リヴェリウス神から与えられた神の知識と技で、飛躍的に発展した。
    当時の責任者であったラウレンス博士は、
    忌むべき存在であった呪われしものたちの知識と力を利用して、魔法をさらに発展させていった。

    いまでは全て失われてしまったが、時を操ったり、空間を越えたり、
    死者の肉体を保存して甦らせることもできたらしい。
    神を越えた帝国の民たちが、アルゼ神を信仰するはずがない。
    自分たちを導いてくれるリヴェリウス神だけが絶対唯一の神なのだ。



ヒカル:話を聞けば聞くほどわからなくなる…
    リーユン…わたしたちのした事はなんだったの?
    あなた達は幸せだったの…?

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■謁見の間


聖女の側近:あら…あなた、ちょうどいいところに来ましたね。
        今、呼びに行こうと思っていたところです。


ヒカル:わたしを?
    (いつの間にかさっき入信を進めてきた人の近くへ戻って来ていたらしい。)

聖女の側近:聖女マハ様が特別にあなたを占ってくださるそうなのよ。
        入信したばかりなのに占っていただけるなんて、滅多にないことですよ!


ヒカル:聖女様に…?

聖女の側近:でも占いには3つの触媒が必要で、占ってもらう人本人が集めてこなければなりません。
        3つの触媒はレクタールの近くの迷宮の奥深くでとれるのですが、
        危険だと思うなら無理はしないことです。
        それでもいきますか?


ヒカル:(答えは決まっている。)
    はい、行きます。

聖女の側近:では行きなさい。あなたに守護竜の加護がありますように…

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ヒカル:(わたし達は、レクタールから北西にある洞窟で『戒めの石』を、
     南の洞窟で『災禍の水』を、そして、ルミナスから北の洞窟で『真理の枝』を手に入れて
     レクタールへと戻って来た。)

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■謁見の間


聖女の側近:3つの触媒を集めてこれたようですね。
        聖女様もあなたを占うことを楽しみにされているようですよ。


ヒカル:(地下の聖堂へと続く階段を教えられ、先へ進む。)

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■地下聖堂


ヒカル:(そこには女性が一人座っていた。この人が聖女様なのかな。)
    あの…

聖女マハ:…わらわの予見は絶対に外れはせぬ。
      この世界の未来…それは既に過去に過ぎん。
      決められた未来を繰り返す、それがこの世界に生まれた者の運命である。
      わらわが垣間見ることのできるのは、すでに起こった出来事なのじゃ。


ヒカル:!(この人…螺旋世界のことを知ってる…)

聖女マハ:…しかし何故か、だ。
      ある時を境に、未来が揺らぎ始めたのじゃ。
      その原因は、『開くもの』と呼ばれる異世界から来た連中にある。


ヒカル:え?

聖女マハ:おまえがその『開くもの』であることはすでにわかっておる。
      異世界へ帰る方法を求めてここにやってくることも、わかっておった。
      おまえは何度もここへ来て、異世界へ帰れず、絶望して死んでいく。
      だからわらわもお情けでアディーンに会わせてやっておった。


ヒカル:…。

聖女マハ:だが…おまえはいったい何者じゃ?
      ヒカルと同じ顔、同じ姿をしておるのに、
      先が見えぬようになっておるではないか、恐ろしいっっ!


ヒカル:ど、どういうこと?

聖女マハ:おまえがいると未来が見えぬ!わらわの力が失われてしまうのじゃ!
      『開くもの』よ、おまえが開くべき扉は、リヴェリウス神の封印だけじゃ、余計なことはせんでよい。


ヒカル:!?
    (突然、わたしはあの暗闇に引きずりこまれる感覚に襲われた。
     過去へ…過去へ……)

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■宿屋(過去)


ヒカル:(目を開けると宿屋の一室のようだった。
     でもなんだかいつもと違う。自分の体が少し透けている。)

男:…妻に、どう説明したらいいのだろう。

ヒカル:(見ると男の人が一人椅子に座って頭を抱えている。
     すぐ傍にいるのに、わたしには気付きもしないようだ。)

男:アルカディア帝国の子孫に対する弾圧は、日に日にひどくなっている。
  捕まれば、私も妻も…生まれたばかりの私たちの子ですら、容赦なく殺されてしまう。


  
黒の宮殿に行けば、時空の穴を使って異世界に逃れることができると聞いたが、
  ほとんどの者は次元の穴に入った瞬間バラバラになって死んでしまうとか…。
  一体どうすればいいんだ。


ヒカル:ぅ…
    (一瞬意識が遠のく。)

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■宿屋(場面変更後)


ヒカル:(目を開けるとさっきまでと同じ部屋。
     でも、今度はさっきの男の人が血まみれで倒れている。
     傷はかなり深そうで、このままでは助からないだろう…
     そして、傍には小さな子供を抱いた女の人がいる。)

男:逃げろーーーー!
  俺のことは構わず、逃げるんだ!!!
  その子を…頼む……黒の宮殿に行けば………
  生きて…くれ…ヒカル……生き……


ヒカル:え?わたしの…名前?

女:あなた!!!…どうして?
  私たちが何をしたって言うの!
  なぜアルカディアの民の血を引いているだけで、殺されなければならないの?


ヒカル:(女の人は、もう動かない男の人にすがって泣いている。)
     
女:…泣いてる場合じゃない、逃げなくては。

ヒカル:(女の人は顔を上げ、腕の中で眠る小さな子供をしっかりと抱いた。
     その顔からは我が子を守りたい母の決意が感じ取れる。)

女:でもどこへ行けばいいの?どこへ行ったって、帝国の子孫は殺される。
 この世界のどこにも、私たちが生きていける場所なんて…ない…
 どこへ行けば…


ヒカル:(また意識が遠のく…)

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■黒の宮殿


ヒカル:(目をあけると今度は、どこか薄暗い…神殿の中のようだった。
     大きなタウンゲートのようなものがあり、その中の空間が歪んでいる。
     そして、その前ににはさっきの女の人がいた。
     女の人は体中傷だらけになっている。)
     
女:この時空の穴を通れば、異世界へ行くことができるのね。
  こんなひどい世界から、逃げることができる…


ヒカル:異世界…

女:ごめんね、お母さんは一緒にいけないの。

ヒカル:おかあ…さん…?

女:あなたは強い子よ、一人でもきっと大丈夫ね?
  ちゃんと育ててあげれなくてごめんね、一人にしてごめんね…
  怖い思いばかりさせて…本当にごめんね…。


ヒカル:まさか…

女:お母さんがおまじないをしておいたわ。
  次に目がさめたら、あなたは何も覚えていないでしょう。
  もう怖い人たちは来ない、泣くことを我慢しなくてもいいのよ、ね?

  新しい世界で、優しい人と、たくさん会えるといいわね。
  さようなら…わたしのかわいい子…お父さんとお母さんを、許してね。


ヒカル:お母さんっ!!
    (叫びながら駆け寄ろうとした。
     でも、あと少しというところでまた意識が遠のく…)

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■冥府の道


ヒカル:(目を開けるとそこは白い崖のような場所だった。
     透けていた体は元に戻っている。)

    お母さん…
    思い出した…今のはわたしの…過去の記憶…

    (涙が止まらない。立ち上がる気力もないわたしにエデンが優しくほお擦りをする。)

    ありがとう、エデン。
    ホルスもごめんね。
    …もう大丈夫…浸ってる暇もなさそうだしね。

    (いつの間にか、無数の魔物や亡者に囲まれていた。
     なぎ倒しながら進む。
     向かっている方向が正しい道なのかどうかはわからないけど、とにかく進むしかない。)



    (どれくらい進んだだろう。出口を探している途中で何人かの人に会った。

     その人たちによると、
     聖女は、わたしのように『ヴェンジェンス』にとって都合が悪い人間を、
     この『冥府の道』に落としているらしい。

     ここにいる魔物や亡者は『名なし』と呼ばれ、元は帝国の子孫。
     ここに捨てられた人たちが共食いをして生き残った姿なのだそうだ。

     疲れ果て座り込む人々に、一緒に出口を探そうと誘った。
     けれど、みんな首を横に振るばかりだった。
     ここを出ることが出来ても、帝国の子孫には行く場所がないのだ…)


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ヒカル:(崖の上を進むと少し開けた場所にローブを着て大きな鎌を持った男が立っていた。)

???:ククク…今日も新たな獲物がやってきた。

ヒカル:人間じゃない…

    (ゆっくりと振り向いたフードの中に見えたその顔は骸骨だった。弓を構える。)

???:コーラルの地下牢からここに移されて4000年、後悔しなかった日など一日もない…。

     私がここにいる限り、ノスフェラトスには行けぬ。
     もっとも、今はあちらと繋がってはおらぬがな。


ヒカル:コーラルの…地下牢?

???:アシャフは処刑され、
     私は生きたままここに閉じ込められた。


ヒカル:あなた…サザンカなの…?

サザンカ:だが慈悲深いアルゼ神は、
      私を見捨てはしなかったのだ!
      アルカディア帝国の子孫を全て殺せば、
      私を赦してくださるのだ!


ヒカル:な、何を…

サザンカ:生きながらにして亡者となり果てた私を、救ってくださるとおっしゃったのだ…
      あぁ、有難い。
      私は慈悲深く偉大な神のため、帝国の子孫を一人残らず始末して見せようぞ。
      神よ、私の忠義をしかと見届けてくださいますよう…


ヒカル:本当の神様ならそんな事言わないわ!

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■戦闘開始


サザンカ:アルカディア帝国の子孫をすべて殺せば、私の罪は赦される…


ヒカル:(サザンカは鎌を振り下ろしてきた。
     エデンが紙一重でそれをかわし、サザンカの懐に突っ込む。)

    サザンカ!

サザンカ:貴様の魂は永遠に地上を彷徨い、永遠に救われぬ…

ヒカル:こんな…こんなのわたしの知ってるサザンカなんかじゃないわ!
    もう人としての理性もなくしてしまったの?

サザンカ:今宵は貴様の臓物をアルゼ神に捧げようぞ…

ヒカル:(サザンカは徐々に傷を癒すリジェを唱えた。)

サザンカ:私は死なぬ…決して死ぬことはない…

ヒカル:(今の時代にも大巫術師として伝わっているサザンカの治癒力は凄まじい。

    何度倒れても立ち上がるサザンカ。)

    これじゃキリがないわ…

    (ありったけの攻撃をサザンカに浴びせ、サザンカがよろめいた瞬間を見計らって
     全力で走った。)

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ヒカル:はぁ…はぁ…
    ここまで来れば追って来ないわよね。
    でも、どうしよう。行き止まりみたい。

    (目の前には高い壁、崖の下は底の見えない闇。)

    戻るしかないのかしら…

    (すると岩の陰から人影が現れた。
     それはアルカスの部屋にいた銀髪のエルフ、ハウルだった。)

    ハウル?どうしてこんなところに…?

ハウル:静かに!…声を出すな。

ヒカル:え…

ハウル:『ヴェンジェンス』は自分たちに都合の悪い者を何人も殺している。
     それでも、聖女様の占いは、我々にとって絶対だ。


ヒカル:…

ハウル:…だが。私たちは同胞を欺くことでしか、生きる道はないのか、
     他にもやり方があるのではないかと思うのだ。
     私は私のやり方で、『ヴェンジェンス』を少しづつでも変えて行きたい。
     私たちが真に復讐したいのは、
     過去の出来事で罪なきものたちまで狩り続けたエルヴァニア人なのだから。


ヒカル:エルヴァニア人…
    (きっとわたしの本当の両親も…)

ハウル:少し話しすぎたようだ。

ヒカル:(ハウルはわたしに一枚の紙を渡して来た。)

ハウル:これを持って急いで岬の神殿に行き、アディーンに会うがよい。
     ノスフェラトスにたどり着くことができるといいな。

     この隠し通路を進めば外に出られる。
     帰ってきたら、どんな場所だったか教えてくれ。


ヒカル:ありがとう、ハウル。

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■岬の神殿


ヒカル:(岬の神殿に着くと何人かの信者がいた。
     ハウルに渡された通行許可証を見せる。)

信者D:…アディーンは目が見えないそうです。
    トルファジアが滅んだ時に天を焼き尽くすほどの炎が上がったらしいんですが、
    その炎を最後まで見続けていたそうです。
    アディーンの目も、ノーリの声も、トルファジアが滅ぶ時に失われてしまったとか。

    あなたに向かって救いを求めている人が、たくさんいます。

    聖女様の占いでは、あなたは危険な存在だと…
    でも私にはそうは思えないんです。

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■岬の神殿最下層


ヒカル:(神殿の最下層には大きな青い竜がいた。)

    あなたが盲目のアディーン?

アディーン:…懐かしい匂いがする。

ヒカル:(近づくとアディーンは顔を上げた。その目には光がない。)

アディーン:ノーリの守護を受けた、アルカディア帝国の血と罪を引き継ぐ者ですね。

ヒカル:…はい。

アディーン:アルカディア帝国の子孫はクルクス全土で大変な迫害を受けていると聞きました。
       大変な旅であったのでしょう。
       あなたが行かねばならないのは、ノスフェラトスと呼ばれる死の大地です。


ヒカル:ノスフェラトス…

アディーン:アルカディア帝国の生き残りであった皇女セクメトは多くの人たちを連れてクルクス島へと逃れ、
       トルファジアと言う新たな国を興しました。
       トルファジアの民となった帝国の生き残りたちは、何事もなく平穏に暮らしていたのです。

       しかしそれは女帝アルカディアが復活するまでの、つかの間の平穏でしかありませんでした。


ヒカル:アルカディアの…復活…?

アディーン:セクメトの体に隠れていたアルカディアの魂は、
       セクメトの子孫の体を使っては何度も転生を繰り返し、力を蓄えていったのです。


ヒカル:そんなことが…

アディーン:やがて力を完全に取り戻したアルカディアは、復活を宣言してエルヴァニアに戦いを挑みました。

       ところが栄華を極めたアルカディア帝国の時代とは違い、リヴェリウス神の力もなく、
       呪われし者たちの力を借りることもできず、トルファジアは敗走を始めました。

       追い詰められた彼女は最後の力を振り絞り、
       ラウレンス博士が作り出した秘法を使って異世界へ逃れようとしました。
       それが…『神の鉄槌』と呼ばれ、ノスフェラトスを死の大地にかえた出来事です。


ヒカル:死の大地…

アディーン:ノスフェラトス…旧トルファジア国の黒の宮殿には、
       異世界へと繋がる時空の裂け目が今も残っています。

       クルクス各地で行き場を失ったアルカディア帝国の子孫が
       ノスフェラトスを目指すのは、生き延びるため…
       裂け目を通って異世界で生きていくためです。
       その裂け目に飛び込んだ者たちが、本当に異世界へいくことができたのかは、
       私にもわかりません。

       私たちは、アルカディア帝国の子孫たちがひとりでも生き残れるように、
       死の大地へ向かう人々の手助けをするだけです。

       北へ…あなたはノスフェラトスに招き入れられることでしょう。
       しかし、ノスフェラトスには今も濃い瘴気が漂っています。
       その瘴気に耐えられるよう、私の鱗を授けましょう。


ヒカル:ありがとう、アディーン。
    (アディーンから青い鱗を受け取る。)

アディーン:さぁ、行きなさい。最後の竜が、あなたを待っています。

ヒカル:最後の…竜…

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ヒカル:(岬の神殿をあとにして歩く。

     毎日毎日、元の世界に帰ることばかりを考えてた…
     でも、わたしは本当はこの世界で生まれていた。

     こちらの世界に召還されてから、もう長い時が過ぎていた。
     この世界に生まれていた記憶が戻ったからという訳ではないけれど、この世界も好きになっていた。

     いつでも温かく迎えてくれるファンブルグの人達…
     そして、いつでもわたしの傍で支え続けてくれているエデンとホルス。
 
     最終的にどちらの世界をわたしが選ぶのかはわからない。
     だけど螺旋世界の秘密を知り、託された願いを叶える事が今のわたしのするべき事だと思うから。

     今はただ、前に進もうと思う。)



     その頃、レクタールで女性の日記と思われる書物が見つかっていた。
     そしてその日記は、こんな風に結ばれていた。

    
 「たとえ世界の終わりがきても。
      呪いを打ち破ることなんてできなくても。
      二度と会うことができなくても。
        …どこかであなたが生きのびてくれれば、それだけで……」





〜編集後記〜

今回のお話でヒカルは自分の過去を知り、変わり果てたサザンカと再会し、2頭目の守護竜アディーンと会いました。

長いようで短かったヒカルの旅も、次回で最終回となります。
最後にヒカルがどんな選択をするのかをどうか見守ってやってください。